青森地方裁判所 昭和25年(行)4号 判決
原告 淡谷清蔵 外十二名
被告 青森県議会
被告 青森県議会総務常任委員会
被告 青森県議会民生常任委員会
被告 青森県議会衞生常任委員会
被告 青森県議会労働常任委員会
被告 青森県議会文教常任委員会
被告 青森県議会経済常任委員会
被告 青森県議会商工常任委員会
被告 青森県議会水産常任委員会
被告 青森県議会土木常任委員会
被告 青森県議会農地常任委員会
一、主 文
原告等の請求は相立たない。
訴訟費用は全部被告青森縣議会の負担とする。
二、請求の趣旨
原告等訴訟代理人は昭和二四年一二月二三日開かれた被告青森縣議会第一六回定例会において議長櫻田清芽が別紙名簿第一表掲記のようにした被告青森縣議会常任委員会委員および正副委員長の指名推選行爲が無効であることを確定するとの判決を求める右請求が理由がないときは予備的請求として右行爲はこれを取消すとの判決を求める訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求める旨申立てた。
三、事 実
各原告および各被告代表者は何れも青森縣議会議員で原告岩淵謙二郎、佐藤義男は何れも社会党、原告柴田久次郎は共産党、その余の原告等は何れも民主党(野党)に所属し、被告青森縣議会代表者議長櫻田清芽、被告同議会民生常任委員会代表者委員長高谷金五郎、被告同議会労働常任委員会代表者委員長鈴木惣吉、被告同議会経済常任委員会代表者委員長館山米藏、被告同議会商工常任委員会代表者委員長伊香善吉、被告同議会農地常任委員会代表者委員長福士繁喜は何れも民主党(與党)、被告同議会総務常任委員会代表者委員長松尾常助、被告同議会衞生常任委員会代表者委員長兼平慶治、被告同議会文教常任委員会代表者委員長坂本正夫、被告同議会水産常任委員会代表者委員長田中助藏、被告同議会土木常任委員会代表者委員長櫻田佐兵衞は何れも民自党に所属している。
ところで被告青森縣議会代表者議長櫻田清芽は、多年原告等と政治的行動を共にして來たが昭和二四年一二月一六日原告等と袂を分かち、原告等以外の民主党(與党)所属議員一三名、民自党所属議員一七名、計三〇名と共に政友クラブ(各被告代表者は何れもその一員)を結成し反対派(各原告はその一名)民主党(野党)所属議員一〇名、社会党所属議員二名、共産党所属議員・無所属議員各一名、計一四名に拮抗して同議会議員四五名(定員四七名中二名欠員)の過半数を制するに至つた。
さて「青森縣議会常任委員会及び特別委員会條例中改正條例」は昭和二三年三月二四日議決(同年六月一日告示同日から施行)され、同日該條例第一條第三條により各部門委員二〇名以内を以て組織される「総務」「民生、衞生、労働」「教育」「経済、商工、水産」「土木」「農地」の六常任委員会が設置され原告等は別紙名簿第二表掲記のように各委員に選任され更に同第七條により原告淡谷清藏は総務常任委員会委員長、原告三上兼四郎は同副委員長、原告伊藤正逸は土木常任委員会委員長、原告岩淵謙二郎は経済、商工、水産常任委員会副委員長、原告柴田久次郎は農地常任委員会委員長に各選任され、爾來忠実にその職務を遂行して來た。然るに昭和二四年一二月二三日午後二時四〇分政友クラブ所属議員二八名(外に同議員の一人たる議長一名)反対派議員一一名、計四〇名出席の下に開かれた青森縣議会第一六回定例会に発議第二号「青森縣議会常任委員会及び特別委員会條例中改正條例の件」が上提され、その要領は前記條例第一條「民生、衞生、労働」を「民生」「衞生」「労働」の三部門に、「経済、商工、水産」を「経済」「商工」「水産」の三部門に各分岐独立させ、また同第三條一部門委員「二〇人以内」を「一〇人以内」に縮減し、「教育」を「文教」に改称するというにあり、從前の常任委員会制度を根本的に変革する重大な議案であり、数多の疑問を包藏し、愼重に審議を盡さなければ到底妥当な表決に達することができない難件であつた。
ところで政友クラブ所属議員松尾節三が提案理由の説明に衝つたが所説簡單曖昧で少しも要領を得ず疑義が百出したから、原告柴田議員が櫻田議長の許可を得て「六部門を一〇部門に増加し、一部門委員二〇人以内を一〇人以内に減少することができるかどうかについては、法律上頗る疑義があり且つ部門の増設は勢い予算の膨脹を伴うであらうから、これらの点につき提案者の意見と当局の対策とを知りたい。」と述べるや提案者乃至当局の答弁をも俟たないで、政友クラブ所属鈴木禮議員は直ちに議長の許可を得て「答弁無用。討論打切。即時採決。」の動議を提出、これに憤激した原告佐藤、藤本、柴田、岩淵等の議員は「議長議長」と連呼起立して発言の許可を求め、他方議員数名が離席して議長席に迫り、他の議員数名はこれを制止しようとして離席、演壇に駆け登る等議場が喧騷混乱を極めた。この間議長は右反政友クラブ所属議員等に発言を許さず、右動議の賛否を議員の起立に問い、これに賛成するもの政友クラブ所属議員二八名、反対するもの反政友クラブ所属議員一一名、よつて動議が可決採択された。しかし原告佐藤、柴田、岩淵議員等が議長の非民主的態度に慊らず、なおも議員の質疑討論を封じ去り一挙に採決に入つた議長の非を鳴らしその責を問うや議長は「見解の相違、答弁の要なし。」と突つ撥ね、議場騷然怒号裡に議長は議案の賛否を議員の起立に問い、前同様賛成議員二八名、反対議員一一名、こゝに過半数を以て質疑討論を経ずして該議案は可決され成立した。時に同日午後三時一二分。一旦休憇。同四時四五分開議。原告佐藤、岩淵、柴田三議員が議長の横暴を坐視するに忍びず同議会に櫻田議長不信任案を提出した。然るに松尾節三(政友クラブ所属議員)仮議長は無暴にもこれまた提案理由の説明をすら封じ去り、議場喧々囂々裡に賛否を議員の起立に問い、賛成者小数の爲該議案は否決された。時に午後八時二五分。暫時休憩。同一一時五分開議。櫻田議長はこれより曩、原告岩淵、木村、伊藤、柳沢、相馬、菅原、淡谷、三浦、佐藤、三上、柴田の一一議員が議長宛に提出しておいた書面による緊急質問通告に一顧だも與えず、專横にも開会劈頭「常任委員会及び特別委員会條例第一條第五條の規定により常任委員会委員を選任したいと思います。本職の指名に御異議がありませんか。」と議場に諮り、原告柴田議員がこれに異議がある旨述べ且つ発言の許可を求めるや議長は一旦発言を許しながら、直ちにこれを取消し叙上委員を指名推選(地方自治法第一一八條所定のそれではなく、指名の前後に全議員の異議又は同意があつてもなくても当選の効力を生ずる指名推選)すべきかどうかを議員の起立に問い、起立者が過半数であることを見定めた上可決を宣し、直ちに別紙名簿第一表記載のように一〇部門の委員八六名の氏名を読み上げ以て指名推選を了した。
次いで同議長は「同條例第七條の規定により各常任委員会の委員長及び副委員長を本職の指名により選任したいと思いますが御異議がございませんか。」と議場に諮り、原告柴田議員がこれに異議を述べるや議長は賛否を議員の起立に問い、賛成者が過半数であることを目認してその旨宣し、別紙名簿第一表記載のように一〇部門の正副委員長二〇名を指名推選した。しかしながら右議決及び指名推選には次のような重大な瑕疵欠缺がある。
一、右改正條例は地方自治法第一六條、第一〇九條、第一一一條青森縣公告式條例、青森縣報発行規程によりこれを青森縣報に登載告示しなければまだその効力を発生するに由がないところ、本件各指名推選賛成決議及びこれに基く各指名推選行爲は又右改正條例がまだ告示されず從つてまだ効力を発生していない、昭和二四年一二月二三日爲されたものであるから何れも法律上当然無効である。仮りにその後同月二九日同條例が告示されたとしても成立即ち議決の当初に遡つてその効力を発生するものではない。
二、仮りに右改正條例がその後の告示により成立即ち議決の日に遡つて効力を生ずるものとしても、地方自治法第一〇九條第三項によれば「常任委員会は普通地方公共団体の事務に関する部門ごとにこれを設けることができる」に過ぎないから、まだ部門別に分割されていない「商工、水産」につき既に分割されている場合同様「商工常任委員会」「水産常任委員会」を設ける旨の本件條例改正部分は前叙法規に牴触し当然無効であり、從つて該部分に基く「商工常任委員会」「水産常任委員会」の各常任委員及び正副委員長の指名推選行爲も亦法律上当然無効である。
三、なお、地方自治法第一〇九條第二項は「常任委員は会期の始めに議会において選任し條例に特別の定めがある場合を除く外議員の任期中在任する」旨規定している。そして法律がかような規定を設けた所以のものは要するに、近時地方自治行政の複雜專門化に伴い議会の審議に科学的檢証を要する部面が激増し本会議だけでの審議では到底所期の成果を挙げることができず、議会運営の能率を増進し所期の目的を達成するには勢い各種專門の部会を設け、これをして議案の審査事務の調査等を管掌させなければならないことは勿論で、そしてこれら部会の能力を十分発揮させるには勢い委員の地位を保障し頻繁なその更替による総ゆる不便障害を未然に除く必要があるからに外ならない。そして別紙名簿第二表記載の委員は何れも前記條例第五條に所謂「常任委員及び特別委員は議長が議会に諮つてこれを選任する」旨の規定により、又、同上正副委員長は同條例第二項に所謂「委員長及び副委員長は議長が議会に諮つてその委員中からこれを選任する」旨の規定により何れも会期の始めに議会において選任されたものであり、議員の任期中在任しなければならないから右改正條例中、既存委員及び正副委員長の地位を剥奪又は、轉換する部分は地方自治法第一〇九條第二項の規定に牴触し当然無効である。仮りに將來に向つてだけは有効であるとしても遡及効を欠如するから既存委員及び正副委員長の既得地位を侵奪することができない。果してそうだとすれば右改正條例の有効であることを前提とする本件指名推選賛成決議及びこれに基く指名推選行爲は何れも無効である。
四、仮りに前記一、二、三の諸点が何れも理由がないものとしても議会における常任委員又は正副委員長の選任には地方自治法第一一八條の適用があるものと解しなければならないから議長は指名推選方法を用いることにつき議員中一名も異議を挿まない場合においてのみこの方法を用うることができるに過ぎず、且つ、指名推選をしたときは必ずや被指名人を以て当選人と定めるにつき、更に出席議員全員の同意を得なければならないに拘らず、本件のように毫もこれらの手続を履践せず、議長の指名推選につき議員中異議を述べる者又は不同意を唱える者が多数ある場合、この異議を抹殺する便法として議長が指名推選によるか、どうかを議場に諮り議員の過半数の賛成を得てこれを議決するは、一普通地方公共団体の議会の決議を以て地方自治法第一一八條第二項第三項第四項の適用を排除するもので、かような議決は本來の意義における指名推選行爲を自派に都合のよい便法にすり換えようとするもので固有の意義における指名推選制度の精神を蹂躙し法律上当然無効であり、從つて又右議決に基く本件指名推選行爲及びこれを前提とする正副委員長指名推選行爲は何れも法律上当然無効である。
五、仮りに右改正條例が有効に成立、即時施行されたものとしてもこれにより從前の「総務」「土木」「農地」「教育」の四部門は依然改変されず(尤も「教育」は「文教」と改称されたが、実質上毫も変更を受けず)從つて從前の各部門の委員及び正副委員長の地位は寸毫も影響を受けず又、從前の「民生、衞生、労働」部門は「民生」「衞生」「労働」三部門に、「経済、商工、水産」部門は「経済」「商工」「水産」三部門に各分割されたけれども分割される前の部門の委員及び正副委員長は分割された後の三部門の中の孰れか一部門の委員及び正副委員長として残留するものといわねばならないから、改正條例の施行により從前の六部門の委員及び正副委員長全員が何れもその地位を失つたものというを得ず、從つて右喪失を前提として爲された本件各指名推選賛成決議及び各指名推選行爲は何れも違法無効である。
六、仮りに上來縷説するところ又理由がないとしても、本件指名推選賛成決議及び指名推選行爲は顕かに議決権乃至指名推選権の濫用である。即ち政友クラブ所属議員等は旧來の委員及び正副委員長の顏触れが兎角反対派に偏するを喜ばず、殊に刻下縣政運営上比較的重要な「総務」「土木」「農地」「商工」「水産」諸部門の委員長が反対派で占められている現状に慊焉たらず、この形勢を逆轉し自他その地位を轉換しようと策謀の上関係法令を無視し、反政友クラブ議員に質疑、應答、討論、審議の機会を全然與えず頭初からその言論を圧迫封じ去り、本件條例の改正、指名推選賛成決議及び指名推選行爲を強行したものである。
今試みに指名推選された委員及び正副委員長の顏触れを一瞥せよ。
1.(イ)縣政運営の中樞活動に関與する総務常任委員会委員九名中八名は政友クラブ所属議員でこれを占め、反対派議員は僅か一名に過ぎない。
(ロ)農地改革推進等に参画する農地常任委員会八名中七名は政友クラブ所属議員でこれを固め、他派議員は唯一名だけである。
(ハ)罹災都市復興国土再建等の仕事に協力する土木常任委員会委員九名は全部政友クラブ所属議員を以てこれに充て、他派議員は全部その選に漏れている。
2.正副委員長は全部政友クラブ所属議員でこれを独占し、他派議員は全部差し措かれ一名だも顧られていない。唯「文教」「民生」各常任委員会各定員九名中各四名、「衞生」常任委員会委員定員八名中三名というように縣政上重要性の乏しい部門の委員に比較的多数が政友クラブ以外の党派から指名されているに過ぎない。
かような險惡な策略、極端な自派本位の指名推選賛成決議及び指名推選行爲は議決権及び指名推選権の濫用であり公共の福祉を阻害し、法律上当然無効である。そして今議長において原告等の異議に耳を傾け、本件選任を單記無記名投票で行わんか、原告等反政友クラブ派に勝算洵に歴然たるものがあつたことは想像に難くはない。そして叙上のような非民主的手続により選任された常任委員及び正副委員長の活動は又偏党派閥本位に墮することは勿論であり、原告等は右指名推選行爲が無効であることの即時確定を求める法律上の利益があることはいうを俟たない。よつて右指名推選行爲の無効確認を求め又若し右行爲が無効でないときはその取消を求めるため本訴に及ぶと陳述し、
1.被告等の本案前の抗弁中
(イ)訴訟物たる適格欠如の抗弁に対し原告等主張の指名推選行爲が法令による普通地方公共団体の常任委員会の委員及び正副委員長の選任に関する行爲である以上議員間の内部行爲に過ぎないとの理由でこれが無効確認乃至取消訴訟の目的たるを得ないという理窟はあり得ないと述べ
(ロ)異議手続省略の抗弁に対し原告等が本訴提起につき、地方自治法第一一八條第五項第一項所定の異議手続を経由しなかつた事実はこれを認めるけれども、原告等が本訴提起につき毫もかような異議手続を経由するを要しないことは同條第五項が單に「投票の効力についての異議に対する決定に不服がある者」といい、投票以外の選挙方法の効力を爭う手続につき何等制限規定を措いていない趣旨から容易に窺われるところであり、なお仮に本訴のように指名推選の効力を爭う訴訟の提起についてもなおかような異議手続を経由しなければならないものとしても、本件指名推選当時は被告青森縣議会の常例会の閉会が目近かに迫り、縱令同議会にかような異議の申立をしてみても、同議会において差当りこれを受理して審議決定する機会がなかつたばかりでなく、本件指名推選手続が多数派の横暴により未曾有の混乱裡に行われた経緯に鑑み、縱令かような重大な瑕疵を含む指名推選行爲の無効確認乃至取消を求めるため被告青森縣議会に異議の申立をしてみても所詮、棄却の決定を受ける運命を免れ得なかつたであらうことは洵に明白であり、且つ事態は極めて緊急を要するものがあつたからかような異議手続を省略して本訴を提起した次第で、かような場合こそ應に行政事件訴訟特例法第二條に所謂「異議手続を経ないで出訴するにつき正当な事由がある場合」に該当するものといわねばならないから、原告等が上叙のような異議手続を経由しないで本訴を提起したからとて、毫も違法不当の廉がない。從つて被告等の抗弁は相立たない。
と陳弁し更に本案の抗弁中
2.(イ)当事者の適格欠缺の抗弁に対し、被告等常任委員会も法令によりその職務を行う範囲内において自己の名において訴え、又は訴えられる権能があり且つ本件指名推選の適法有効であることを強調して已まない以上固より毫も被告たる適格に欠くる所はない。
と附陳し、なお
(ロ)地方自治法第一一八條の適用排除の抗弁に対し「青森縣議会常任委員会及び特別委員会條例」第五條に所謂「常任委員及び特別委員は議長が議会に諮つてこれを選任する」とは「議長にこれらの委員選任の主導権を與えたものであり、從つて議長がこれらの委員を選任するに際り一應参考として議会の意見を聽取すれば足り固よりこの意見に拘束されない。」という趣旨ではない。同條は議長がこれらの役員を選任するには必ずや地方自治法第一一八條の手続によらねばならないことを規定したものといわねばならない。でなければかような條例は立法者が憲法第九四條に「地方公共団体は法律の範囲内で條例を制定することができる。」と規定し、又この規定に基き地方自治法第一〇九條第二項に「常任委員は議会においてこれを選任する」と規定し、なお又同法第一四條第一項に「普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて第二條第二項の事務に関し、條例を制定することができる」と規定し、條例の制定範囲を憲法、法律、政令等條例の効力を超越する効力を有する法規の枠内に局限している趣意に背戻し当然無効である。(尤も法律は「選任」と「選挙」との区別につき明確な規定を設けず、唯実際上、投票によるを原則とし指名推選によるを例外とする場合を「選挙」と称しその逆の場合を「選任」と呼ぶ。そして法律が本件のような常任委員の選出を「選任」という所以のものは要するに実際上、かような委員の選出については事前に各派交渉会を開き各派所属議員数の比率により選出委員及び正副委員長の数及び顏触れを予め割当て決定して措き、議長が本会議でその決定事項を唯宣言するだけで指名推選の役目を果すことができるからに外ならない。從つてかような場合でも、苟も指名推選と呼ばれる程のものはどこまでも地方自治法第一一八條所定の指名推選たるを要し現に昭和二三年三月二四日開かれた被告青森縣議会においてはこの方法を採用して別紙名簿第二表記載の常任委員及び正副委員長を選任した。)
本件のように議長が先づ指名推選によるべきかどうかを議場に諮り異議続出に周章狼狽しこれを撃退するため多数を頼み、賛否を議員の起立に問い果して過半数の賛成を得て、予て多数派議員のみの間で打合わせ取決めておいた通り委員及び正副委員長の氏名を読み上げる場合は無論同條に所謂指名推選に該当せず、從つて又同法第一〇九條第二項、前記條例第五條第七條第二項に所謂「選任」ということもできない。(因みに地方自治法には国会法第四六條のような委員の比率割当選任の規定がないが、これは立法者が「地方公共団体の議会の常任委員会の委員の選任についてまでかような規定を設けるときはかような議会においても国会においてのように、深刻な政党色の存在することを予想することになり、地方自治行政を育成善導する所以ではない」と思惟したからに外ならず、地方公共団体の議会の常任委員会の委員選任につき比率割当選任制度が適合しないからでは決してない。否寧ろ地方公共団体の議会においてこそこの制度の趣旨を援引、活用しなければならないことはいうまでもない。)
3.被告等の公福背反による請求棄却の抗弁に対し一般に本訴のように普通地方公共団体の議会の長のした指名推選行爲の無効確認を求める訴えに行政事件訴訟特例法第一一條の適用がないことは同條の文理解釈上一点疑義の存しない所である。仮りに準用若しくは類推適用し得るものとしても、或は又本訴第一次行政行爲の無効確認を求める請求は理由がなく、第二次行政行爲の取消を求める請求だけが理由があるとしても本件については行政事件訴訟特例法第一一條を適用すべき限りでない。即ち(イ)今若し本件指名推選を法律上当然無効とし或は取消により無効とし更に本件委員の選挙を地方自治法第一一八條第一項、第三二條、第四一條、第五五條の規定に基き、單記自書無記名投票(この方法以外の選任方法は普通地方公共団体の議会で行う選挙に関する限り法律上絶対にあり得ない)により行うものとしてみよう。必ずや少数派の意思も相当反映され、その利益も多分に擁護され、原告等反政友クラブ派は裕に各部門殊に「総務」「土木」「農地」等の重要部門に相当数の委員及び正副委員長を送ることができることは次の事例により窺知するに十分である。
(甲)今議員四五名(この場合正副議長も選挙資格だけは有つている)が一〇部門の委員候補者計八六名全員(改正條例第三條によれば一〇〇名以内であるが現存議員四五名から被選挙資格のない議長及び副議長を除いた残議員四三名が同條例第六條により一人で二箇の委員に選任されるものとする)中自派の擁立した任意の部門の候補者一人一票の割合で一斉に投票するときは両派が同時に比較的重要な部門(例えば「総務」「土木」「農地」)の委員候補者に投票を集中するであらう。しかしかような場合でも原告等反政友クラブ派議員は局面を自派に有利に展開することができる。即ち今例えば土木常任委員会委員九名の獲得を両派で爭う場合を想像せよ。政友クラブ所属議員三一名がその擁立した候補者六名に五票宛、一名に一票を、又反政友クラブ所属議員一四名が自派の擁立した候補者二名に五票宛、一名に四票を各投ずることにより政友クラブは六名、反政友クラブは三名の各常任委員を獲得することができる。ところでこの場合政友クラブ所属議員三一名がその擁立した「土木」部門の委員候補者六名に投票を集中している間に、反政友クラブ議員一四名が自派の擁立した「総務」部門の候補者九名にその投票を集中(例えば五名に二票宛、四名に一票宛の割合で)することにより、議員三一名を擁する政友クラブが「土木」部門の委員僅か六名を獲得し得るに過ぎないに反し議員数僅か一四に過ぎない反対派が、「総務」部門の委員九名全員を独占することができ、從つて又「総務」部門の正副委員長をも自派から選任することができる(前記條例第七條第二項)という奇観を呈するに至る。次に、
(乙)投票議員四五名が前叙一〇部門議員候補者計八六名を順次一部門別に選ぶ場合を考えるに反政友クラブ議員一四名が縣政上比較的重要でない「民生」「衞生」「労働」等の諸部門の委員の選任投票にはなるべく棄権して政友クラブ側議員の投票に讓り、又は敢て政友クラブ所属議員に投票し、よつて以て政友クラブ所属議員が重要部門の委員候補者と爲る機会及び数を縮少して自派議員でこれを補い、略ぼ(甲)同様の成果を收めることができる。唯叙上(甲)(乙)の場合両派が何れも重要部門の委員候補者に投票を集中する結果、補欠選挙を行わねばならないであらうが、本件のように両派の勢力分野が三一対一四である場合はかような補欠選挙の施行は精々一、二回で足ることは算数上明白である。なお、
(丙)原告等反政友クラブ派議員一四名は終始一致結束していたに反し、政友クラブ所属議員三一名は利を以て集まり損を以て散する同床異夢の寄合世帶である関係上、今若し本件選任を叙上のように單記自書無記名投票により行うときはいざ投票という刹那予ての自派内の申合せを打忘れ、重要部門の委員の椅子を狙つて自選者他選者が続出し、なお自派内連絡の有無、投票技術の巧拙、議員の出欠、その他微妙な雰囲気が影響して意外の番狂わせを演ずる憂がないわけではなく、かような懸念が絶無だという保証は何処にもない。從つて叙上指名推選によつても將また投票によつても当選者の数及び顏触れに毫も異同がないという理窟は到底成り立たない。(ロ)昭和二五年二月一四日招集された文教常任委員会、同月一八日招集された農地常任委員会(委員の定数八名)、同月二一日招集された経済常任委員会(委員の定数九名)、同月二三日招集された衞生常任委員会(委員の定数八名)は法定数の議員が出席しなかつたため、常任委員会が成立しなかつた。尤も右文教常任委員会に原告柴田久次郎、右農地常任委員会に原告三浦道雄、右衞生常任委員会に原告工藤徳三が出席した事実は何れもこれを爭わないけれどもその理由はこれらの議員が單に民衆の陳情を紹介したり議員相互で懇談したりするにあり、勿論常任委員としての職務を執行するに存しなかつた。その他の事実は否認する。のみならず仮りに被告等主張のように常任委員会が開かれたとしてもその活動は陳情調査等軽微な事務処理の域を出でず、
以上各種の事情を分析総合してみても本件指名推選を取消すことが公共の福祉に適合しないものとして本訴請求を棄却しなければならない理拠は何処にも発見することができないから、被告の抗弁は採るに足らない。
惟うに行政事件訴訟特例法第一一條に所謂「第二條の訴(行政廳の違法な処分の取消又は変更に係る訴訟)の提起があつた場合において処分は違法ではあるが、一切の事情を考慮して処分を取消し又は変更することが公共の福祉に適合しないと認めるときは裁判所は請求を棄却することができる」は訴訟法上驚天動地ともいうべき劃期的変革規定で一般原則の例外の例外を成すものであり、本來われわれ民衆の法的情感乃至悟性に響應しない所のものであるのみならず、この規定は要するに個人の公法上の権利を国家社会の一般利益の犧牲に供しようという滅個拯全の思想に胚胎するものであるところ、何が所謂国家社会の一般利益であるかは全然不明で正確な標準を建てることは至難の業である。行政廳が兎角我田引水の主張をして局面を自己に有利に展開しようとし国利民福の保持増進に毫も相関する所がない事項についてまで「公共の福祉」の標号を掲げて個人の公共上の権利を侵害する口実を設けようとしているのも所謂「公共の福祉」の具体的標準を設けることが不能であるからに外ならない。併し乍ら各個人の公法上の権利の保護伸張こそ実に眞に国利民福を把持増進する所以であり、これなくして「公共の福祉」は到底あり得ない。この理に徹すれば被告等の抗弁の採るに足らないことは自ら明瞭であると附演した。(立証省略)
被告等訴訟代理人は
(1)先づ本案前の抗弁として原告等の訴はこれを却下するとの判決を求め、その理由として原告等主張の指名推選行爲は單に青森縣議会運営に関する議員間の内部行爲に過ぎず、直接外部縣民の権義に影響する行政処分ではないから本件訴訟の訴訟物たるに適しない。と陳述し、
(2)本案請求に対し原告等の請求は相立たないとの判決を求め、答弁として
(イ)被告等常任委員会は成法上当該部門に属する青森縣事務の調査、議案請願陳情等の審査をする以外裁判上自己の名において一切の行爲をする権能及び責務がないから本訴被告たる適格を全然欠如する。よつて本訴請求は理由がない。仮りに右適格があるものとしても次のような致命的欠陷を発見するに到るであろう。即ち被告等は各原告及び各被告代表者は何れも被告青森縣議会の議員で原告等主張の政党に所属すること、昭和二四年一二月一六日その主張の同志議員三一名が「政友クラブ」を結成し同議会議員四五名(定員四七名中二名欠員)中過半数を制するに至つたこと、これより曩、昭和二三年三月二四日被告青森縣議会において「青森縣議会常任委員会及び特別委員会條例中改正條例」が議決制定(同年六月一日告示同日施行」され右議決制定の日同條例第一條により「総務」「民生、衞生、労働」「教育」「経済、商工、水産」「土木」「農地」の六部門常任委員会が設置され、これと共に同第五條により委員又同第七條により正副委員長が別紙名簿第二表記載のように選任されたこと、その後昭和二四年一二月二三日「政友クラブ」所属議員二八名(他に議長一名)反対派議員一一名計四〇名出席の下に開かれた同議会において從前の「民生、衞生、労働」一部門を「民生」「衞生」「労働」三部門に、又從前の「経済、商工、水産」一部門を「経済」「商工」「水産」三部門に各分岐し、從前の「教育」部門を「文教」部門に改称し、なお、從前の一部門の構成委員二〇名を一〇名に減少することを内容とする「青森縣議会常任委員会及び特別委員会條例中改正條例」が提案議決され、該改正條例に基き原告主張のように委員指名推選方法採用決議、委員指名推選行爲、正副委員長指名推選方法採用決議、正副委員長指名推選行爲が順次爲されたことは何れもこれを認めるが、爾余の事実は全部これを否認する。
(ロ)(一)本件昭和二四年一二月二三日議決された「青森縣議会常任委員会及び特別委員会條例中改正條例」附則に同條例は同日よりこれを施行する旨の規定があり、その後同月二九日該條例は地方自治法第一六條第一〇九條第一一一條青森縣公告式條例青森縣報発行規定により青森縣報号外に同月二三日附で登載告示されたから該告示を以て議決の日時に遡つてその効力を発生したものというべく、從つて該條例に基く本件各指名推選方法採用決議及び指名推選行爲は寸毫も違法ではない。
(二)なるほど地方自治法第一〇九條第三項は普通地方公共団体の議会は該団体の事務に関する「部門ごとに」常任委員会を設けることができる旨規定しているけれども、ここに所謂「部門ごとに」とは、必しも縣機構の既存部門数に対應して同数の常任委員会を設けることができるという趣旨ではない。時代の要請、立地的特殊事情の変更既存部課の事務の繁閑等に照合し常任委員会の数を適宜に増減することができる含みであることは、本來縣機構の行政部門そのものでさえ相当自由に増減変更し得ること同法第一五八條に照し一点疑雲を止めない所からも容易に忖度し得るところでなければならぬ。現に昭和二三年三月二六日青森縣においても「水産部」を「商工部」から独立させる趣旨の條例が制定され同日より施行されており唯庶務の都合上まだその実現を観るまでに至つていないに過ぎない。從つて本件改正條例を以て前記「商工、水産」につき「商工常任委員会」及び「水産常任委員会」を設けたからとて、該條例議案賛成決議及び該條例、從つて又本件各指名推選賛成決議及び指名推選行爲を違法無効視するは当らない。
(三)原告等は、地方自治法第一〇九條第二項中「常任委員会は会期の始めに議会において選任し、議員の任期中在任する」とある部分を援いて、一旦青森縣議会において選任された常任委員從つて又正副委員長は、議員の任期中在任し得るに拘らず六部門を一〇部門に増加する傍ら一部門の構成委員二〇名を一〇名に減縮しよつて以て議員の任期満了前委員從つて又正副委員長の地位を剥奪しその既得権を侵害することを内容とする本件條例議案賛成決議、該條例及びこれに基く一切の手続は右規定に牴触し違法無効であると主張するけれども同項にはなお「條例に特別の定がある場合を除く外」とあり、苟しくも條例を以てする以上、同項の内容と異る内容の規定を設けることを毫も妨げない趣旨を明瞭にしているから本件のように青森縣條例を以て議員の任期満了前その委員乃至正副委員長全員を更替する旨の規定を設けたからとて本件條例議案賛成決議、該條例、各指名推選賛成決議及び指名推選行爲は毫も違法不当ではない。
(四)「青森縣議会常任委員会及び特別委員会條例」第五條及び第七條によれば常任委員及び正副委員長は、議長が「議会に諮つて」選任すれば足る、そしてここに所謂「議会に諮つて」とは本來、常任委員及び正副委員長の選任につき主導権を握る議長において一應「参考のため議会の意見を聽き」という程の意味に過ぎず、從つて議長が一應議会の意見を聽取した以上必ずしもその意見に拘束されず独自の見解で敍上選任に出ても毫も違法ではない趣旨と解するを相当とする。仮りにこの見解は誤つているとしても「議員定数の半数以上の議員が出席した議会において、議員の過半数の賛成決議により」という程の意義に過ぎない。從つてここに所謂「選任」は地方自治法第一一八條に所謂「選挙」例えば、同法第一八二條に所謂「選挙」とこれを峻別するを要し、この選任については固より同條の適用は排除される。それは法律や條例が常任委員の選出につき「選任」という語を用い「選挙」という文字を排除している趣旨からも容易に窺うことができるわけである。從つて、議会は右「選任」の方法についても同條の拘束を受けず多数決により自由にこの方法を決定することができるものといわなければならない。
即ち勿論投票方法によることを提案議決することもできるし、又本件のように、反政友クラブ派議員に異議があるに拘らず議長の指名に一任する旨提案議決することもできる。從つて本件各指名推選方法採用決議は無論有効であり、從つてこの議決に基き爲された本件各指名推選行爲(しかも議長は各指名推選後、議員に異議がないかどうかを諮る必要は更にない)も亦有効である。仮りに百歩を讓り本件指名推選手続にも地方自治法第一一八條第二、三、四項の規定が当嵌まるものとしても原告等の本請求の趣旨とするところは畢竟被告青森縣議会議長櫻田清芽のした本件指名推選行爲が地方自治法第一一八條第二、三、四項に牴触するからその無効確認若しくは取消を求めるというにあるを以て原告等は先づ同條第五項第一項に則り被告青森縣議会に異議を申立てその決定を受け、該決定になお不服があるとき始めて前敍のような訴を提起し得るに過ぎない。然るに原告等は毫もかような不服申立手続を経由せずして直接当裁判所に本訴を提起したものであるから右條項に違背し本訴は到底不適法として却下される運命を免れない。
(五)行政行爲については私法上一般に肯定されているような権利濫用の法理を適用する余地は全然存しない。仮りにあるとしても、本件條例改正決議各指名推選方法採用決議及び各指名推選行爲は原告等主張のように、「政友クラブ」所属議員において当初から重要部門の委員及び一〇部門全部の正副委員長を自派で独占する意図の下に爲されたものではないし、又これら一連の手続において議長又は「政友クラブ」において少数派の質疑討論を封じたものでも断じてない。却つて反政友クラブ派議員達こそ「本件委員及び正副委員長は機会均霑更始一新の建前から一年ごとに更替にする」という議員間の予ての申し合わせを無視し昭和二四年一二月二三日本件條例案が議会に上提される前催された各派交渉会において「総務」「土木」「農地」三部門の正副委員長の椅子を固執して讓らず本件條例改正案及び指名推選方法採用決議案の審議を未了に終らしめようと画策して議場を大混乱に陷れたものでその責寧ろ少数派にあり、これこそ審議権の濫用以外の何ものでもない。
(六)仮りに本件各指名推選行爲に原告等主張のような瑕疵があつたとしても、かような欠陷は所謂能力的規範に違背する病菌即ち行爲の要素を根本的に変革する致命的病魔ではなく、單に命令的規則に牴触するに過ぎない弱点換言すれば行爲の遠由に伏在する軽微な瑕瑾に過ぎないから本件各指名推選行爲は法律上当然無効ではなく單に取消し得るに過ぎない。ところで
(七)(イ)本件委員及び正副委員長の選任は本件のような指名推選によつても將又原告等の極力主張するような單記無記名自書投票によつても結果において寸毫も異る所はない。即ち
(甲)総議員四五名が委員八六名(議長及び副議長を除いた残余の議員四三名を二箇宛の委員に選任するものと仮定する)を廣く一〇部門共通の範囲で同時に前記投票により選任する場合は投票が比較的重要と認められる部門を構成する委員の当選を目指して集中するに反し比較的軽視されている部門所属の委員に蒐まらない結果幾度も補欠選挙を繰返す以外定員を揃える方法はあり得ない。しかしながらかような方法による委員の選任は技術上相当困難を伴い強いてこれを敢行してみても、結果において本件のような指名推選手続によつた場合と殆んど異る所はない。又
(乙)総議員四五名が一部門ごとに、順次特定部門の構成委員一〇名宛を投票により選任するものと仮定せんか、「政友クラブ」所属議員三一名が「民生」「衞生」「労働」「文教」のような比較的軽視されている部門の委員の選挙については自派の議員に投票せず逆に他派の議員に投票しよつて以て一旦かような軽視されている部門の委員に選任された議員をして更に他の重要な部門の委員に選任される機会を失わさせ重要な部門の委員の選挙の到來を待つて自派の議員に投票するであろうから本件指名推選方法を用いた場合と結果において殆んど変るところがない。そして以上(甲)(乙)何れかの方法を用いることにより「政友クラブ」が各部門の常任委員会の委員の過半数を獲得し得ることが確実である以上一〇部門の常任委員会の正副委員長をも全部自派で独占し得ることは容易に想像し得るところでなければならない。蓋し、前記條例第七條第二項によれば正副委員長は「政友クラブ」所属議員たる議長が議会に諮つて(「議会の議決を経て」の意と仮定)「その委員中」からこれを選任しこの選任はこれを單記無記名自書投票によつて行つても、地方自治法第一一八條第二、三、四項所定の指名推選によつて行つても、或は又本件のような指名推選方法により行つてもその他凡そ想像し得る如何なる方法によつて行つてもこれと異る結果を生ずる余地は全然想像し得ないからである。なお
(ロ)本件各指名推選後、定足数の新任委員及び正副委員長(但し総務常任委員会では副委員長は出席しなかつた)出席の下に昭和二五年二月七日土木常任委員会、同月一三日水産常任委員会、同月一四日文教常任委員会、同月一八日農地常任委員会、同月二〇日総務常任委員会、同月二一日経済常任委員会が何れも開かれ当該委員等及び正副委員長においてそれぞれ陳情請願等を審査表決報告し又目下長期に亘り所謂予算議会が開かれ、常任委員会の活動に期待するところ洵に甚大なものがある。從つて仮りに本件改正條例案の議決、該條例これによる各指名推選方法採用決議これに基く各指名推選行爲に原告等主張のように取消の原因となり得る瑕疵欠缺があつたとして上來縷述したような特殊の事情が存在する以上原告の請求を認容することは、眞に公共の福祉に適合しないことは勿論であるから本訴請求は到底理由がないとして排斥される運命を免れない。(唯行政事件訴訟特例法第一一條第一項の規定は同規定の適用を受ける訴を本來同法第二條に所謂「行政処分の取消し変更を求める訴」に限定しているように観えるけれども元來行政処分の無効原因と取消原因との間には截然たる区別があるわけではないから同法第一一條の規定は若し本件指名推選方法採用決議及び指名推選行爲が法律上当然無効だとすればかような場合にも少くとも類推適用されねばならない。よつて本訴請求は以上何れの点から観ても正当な理由を欠如し失当であると陳述した。(立証省略)
四、理 由
よつて先づ被告等の本案前の抗弁中
(イ)訴訟物たる適格欠缺の抗弁について稽えるに、原告等主張の指名推選行爲は、一見所論のように、被告青森縣議会運営に関する議員間の内部行爲に止まり直接縣民の利害に影響する行政処分ではないように観えるけれども、凡そ普通地方公共団体從つて又青森縣議会諸部門常任委員会は、縣事務の調査、條例案予算案、その他の議案、各種の請願、陳情等を審査、表決報告するを使命とし、そして、法律がかような委員会制度を設けた所以のものは要するに、本会議では、会期の制限、委員の專門的知識の不足、集中感の稀薄、研究心の散漫、「船頭多くして船山に登る」式の精力の濫費、能率の減退、その他の不便乃至欠陷により敍上のような重大な案件を到底微に入り細を穿ち吟味調整することが至難なため、議会の準備手続機関乃至縮図としてこれらの案件を処理運営させ、よつて以つて議事の能率を増進させ、敏速適正に所期の成果を挙げさせ民主議会制度の妙味を十二分に発揮させんがために外ならない。從つてかような委員会は、成程その活動舞台だけは、議会内部に過ぎないとはいえ、その実体は、議会の一分肢即ち一部であり、議会そのものであり、その一挙手一投足すらも議会を通じ廣く縣民全体の利害休戚に相関する所洵に甚大なるものがあり、從つて又各部門常任委員会の構成員たる委員の議会における選任手続にして宜しきを得ず、原告等主張のように重大な瑕疵欠缺を包含する場合においては、法律上非難に値するは勿論で、かような手続により少くとも直接損害を被つた当該普通地方公共団体の議員において司法裁判所に該手続乃至行政行爲の無効確認乃至取消を訴求する権利を保有することはいうを俟たないところであり、この見解は、立法者が憲法第七六條裁判所法第三條、地方自治法第一七六條第五項第一一八條第五項第一四六條等の條項を以て、普通地方公共団体の議会等行政廳の公法上の違法行爲により公法上の権益を侵害され、よつて以て損害を被つた国民に司法裁判制度による救済を受ける権利を頗る廣範囲で附與し、何処までもその基本的人権を保護しなければ己まないという精神を如実に顕現している趣旨からも容易に是認し得る所でなければならない。從つて今若し本件指名推選手続、その前提たる指名推選方法採用決議改正條例及び該改正條例案賛成決議にして、原告等主張のように重大な瑕瑾を包含するものとせんか、原告等はこれが無効確認乃至取消を求める権利を拒まれないことは勿論でこの場合「かような苦情は、行政廳相互間の所謂機関爭議の埒内を出ないから訴訟に俟つまでもない。ただ行政法上の監督手続だけで処理是正すれば沢山だ」と論じ去ることを許さないものといわざるを得ない。
よつて進んで本案請求中先づ被告等青森縣議会一〇部門常任委員会が本訴当事者たる適格を有するかどうかにつき一考するに被告等青森縣議会一〇部門常任委員会は議会の準備手続機関乃至縮図として、議事運営上相当重要な役割を演ずるものである。事実は既に前段において認定した通りであるが固より議会の一分派即ち一部に過ぎず、議会と截然分離飛躍して、不覊自在独自の行動に出で固有の機能を営むものではない。
議会と委員会との関係はこれを譬えれば、猶、身体と五管との関係のようなもので、個々の官能は全身体の一部であり、全身体は個々の官能の有機的結合に外ならない。個即ち全、全即ち個、一即ち多、多即ち一、両者は表裏一体、形影相伴う。ここを以て議会にして既に訴え又は訴えられる一個の能力主体である以上、單に議会の一分肢一部門に過ぎない、常任委員会までもが亦更に訴訟当事者たる適格を受有する必要及び根拠は断じてあり得ない。論理上同一の原理を援いて説明するまでもなく、実際上も亦毫末もその必要がないからである。法律が、普通地方公共団体の議会については随所に明文(例えば、議会において行う投票の効力についての異議に対し、議会がした決定に不服がある者は議会を被告として、裁判所に出訴することができる旨の地方自治法第一一八條の規定、議会の議決又は選挙が権限を超越し又は法令規則に違反するときは、普通地方公共団体の長が議会を被告として裁判所に出訴することができる旨の同法第一七六條の規定等)を以つて、訴訟当事者たる適格を附與しているに拘らず、その各部門常任委員会については毫もかような訴訟上の権利能力附與規定を措いていない理由は実にここに存するものといわざるを得ない。
同一権利主体乃至一個の組織体を細分化し各細胞に、自己の名において訴え又は訴えられる権能即ち訴訟上の権利能力を附與するときは單に法理上齟齬撞着を來すばかりでなく、訴訟手続を徒らに複雜煩瑣化し、これらの各訴訟主体が相互に連絡協調を保ち共同の目的達成のため努力する場合は格別、そうでない場合には不覊奔放自在に固有の権能を発揮するため、取引の矛盾混乱を誘致し、毫もその統一安全を期する所以ではない。從つて実際上の取引の便宜の点からいつても各部門別に訴訟上の権利能力を附與することは当然避けなければならないところである。果してそうだとすれば、本訴請求中青森縣議会一〇部門常任委員会そのものを部門別に被告とする部分は、被告たる適格を全然欠如する組織体の一分派一部分を、かような適格を具有するものと誤解して爲された、瑕疵違法があり、到底理由がないものとして排斥される運命を免れない。なお行政処分の取消訴訟は原則として処分をした行政廳を被告としてこれを提起するを要し、その他の者は縱令、該処分により反射的利益を亨受保有する者でも被告たる適格を欠如することは行政事件訴訟特例法第三條の趣旨に微し明白であるから本件において、行政行爲をした議会(本件指名推選は議長の行爲であるが議長は議会の決議に基きこれを施用したものであるから議会の行爲に帰着する)以外の一〇部門常任委員会を被告とするは違法である。唯本訴請求中無効確認を求める部分の被告如何については稍疑義があるが後述するように行政行爲の無効と取消との間には本質的区別は存せず、無効は取消を俟たないで始めから無効であり取消は取消を俟つて当初に遡つて無効に帰するという程の差異に過ぎないから前記規定は移して以つて無効確認訴訟にも類推適用することができるものと解するを正当とし右訴訟において新任委員及び正副委員長が被告たる適格を欠如する理由も亦こゝに存する。さて次に、各原告及び各被告代表者は何れも被告青森縣議会の議員で原告等主張の政党に所属すること、昭和二四年一二月一六日その主張の同志議員三一名が「政友クラブ」を結成し同議会議員四五名(定員四七名中二名欠員)中過半数を制するに至つたこと、これより曩昭和二三年三月二四日「青森縣議会常任委員会及び特別委員会條例中改正條例」が議決制定(同年六月一日告示同日より施行)され、同條例第一條により「総務」「民生、衞生、労働」「教育」「経済、商工、水産」「土木」「農地」六部門の各常任委員会が設置され、これと共に同條例第五條により委員、又同第七條により正副委員長が別紙名簿第二表記載の通り各選任されたこと、その後昭和二四年一二月二三日政友クラブ所属議員二八名(外に同議長一名)、反政友クラブ派議員一一名、計四〇名出席の下に開かれた同議会において從前の「民生、衞生、労働」一部門を「民生」「衞生」「労働」三部門に、從前の「経済、商工、水産」一部門を「経済」「商工」「水産」三部門に各分岐独立させ、從前の「教育」部門を「文教」部門に改称し、なお從前の一部門の構成委員「二〇名以内」を「一〇名以内」に減少することを内容とする「青森縣議会常任委員会及び特別委員会條例中改正條例」が提案議決され、該改正條例により原告主張のように、委員を指名推選方法で選任する議決及び該議決に基く議長櫻田清芽の委員指名推選行爲、竝びに正副委員長を指名推選方法で選任する議案の議決及び該議決に基く同議長の正副委員長指名推選行爲が順次爲されたことは当時者間に爭がない。
原告等は右各指名推選方法採用決議及び、指名推選行爲は何れも右改正條例成立後、その告示前爲されたものであるから法律上当然無効であると主張し、かような條例がその成立後その告示を以つて始めてその効力を生ずるものであることはいうを俟たない所であり、そして成立に爭がない甲第六、七号証乙第三号証を綜合すれば右改正條例が地方自治法第一六條第一〇九條第一一一條青森縣公告式條例青森縣報発行規程により青森縣報号外に、登載されよつて以つて告示された日は同月二九日であることを肯認することができ右認定を覆し得る何等の証左はないから右各指名推選方法採用決議及び指名推選行爲は何れも右改正條例成立後その告示前爲されたものであることは一点疑義の存しない所であるけれども、同改正條例附則に該條例は議決により成立した日と同日たる昭和二四年一二月二三日からこれを施行する旨の規定があること及び該條例が右成立の日の日附で告示されたものであることは成立に爭がない。甲第六、七号証を綜合してこれを認めるに十分で右認定を左右することができる証拠は一もない。そしてかように條例の内容に該條例はこれを成立の日から施行する旨の規定があり、且つその告示の日附も施行の日附も成立の日附と同日である場合は実際告示が爲された日が、その後の同月二九日であつても、同條例はこの眞実の告示を俟ち成立の日に遡及して一挙に発効、告示及び施行されたものと解さねばならない。換言すれば右改正條例の発効告示及び施行は、何れも該條例が議決により成立すると同時に成立し唯各その効力の発生だけは事実上の告示に繋るもの、即ち右條例の発効、告示及び施行は事実上の告示を遡及的停止條件として一挙に成立したものと観ずるを相当とする。果してそうだとすれば右改正條例成立後事実上その告示及び施行前、この條例により爲された本件各指名推選方法採用決議及び指名推選行爲は他にこれの手続を違法無効視されなければならない、又は取消さなければならない特段の事由があれば格別無いとすればその各行爲当時に遡及して有効に成立し爾來なおその効力を持続し來つたものと観るべきでこれらの手続が單に右改正條例の事実上の告示以前に爲されたという理由だけでは、これらの手続は違法無効だ少くともこれを取消すことができると断ずるを許さないものといわねばならない。
次に本件改正條例のよつて以つて成立した青森縣議会における條例案の議決の効力如何につき考察するに、成程、地方自治法第一〇九條に、普通地方公共団体(從つて又青森縣)の議会は、該団体に関する「部門ごとに」常任委員会を設けることができる旨の規定があり、又かような委員会は、該団体に関する部門別に設けてこそ、唇歯輔車、相倚り相待つて相互の機能を十分発揮することができることは洵に見易い道理であるけれども、ここに所謂「部門ごとに」とは必しもこれを縣機構の既存部門に杓子定規的に一対一の割合で対應割当て、縣機構の部門数と委員会数とを終始一貫同一に堅持継続しなければならないという程爾かく動きの採れない窮窟なものと解しなければならない必要は全然存しない。現に、地方自治法乃至各種條例の母法ともいうべき国会法第四二條がその第一次で「各議院の常任委員会は左の通りとし、その部門に属する議案、請願、陳情書その他を審査する」といつて「外交委員会」外二〇箇の委員会を一應固定して措き乍ら直ぐその第二項で「各議院は両院法規、委員会の勧告に基いて前項各号の常任委員会を増減し、又は併合することができる」といつて両院法規委員会の勧告さえあれば自由に常任委員会を増減及び併合することができることを明かにしなお又、衆議院規則第九二條がその本文において「各常任委員会の委員の員数及びその所管は左の通り」といつて「外交委員会」以下二〇箇の委員会の構成委員数及びその所管事項を列挙し置き乍らすぐその但書で「但し、議員の議決によりその員数を増減し又はその所管を変更することができる」といつて議院の議決でする以上、委員数の増減は勿論、所管事項の変更をすら自在にできることを明瞭にしている。そればかりでなく縣知事が特別の必要があるときはその権限に属する事務を分掌させるため、「総務部」「民生部」「教育部」「経済部」「土木部」「衞生部」「農地部」計七部門の外、條例を以つてなお「商工部」「水産部」「労働部」「公共事業部」計四部をも設けることができることは地方自治法第一五八條第一、二項により炳乎として明白であり、そして青森縣知事がこの規定に則り特別の必要があるものと認め、既に昭和二三年三月二六日條例を以つて、「商工、水産」部を「商工部」及び「水産部」に分岐独立させている(但し、庶務、予算、人事等の調整関係上本件口頭弁論終結当時まではまだ実際上これを運用するまでには至つていない。)以上の諸規定を通覧すれば特殊事情の変遷殊に「縣知事の権限に属する事務分掌部門」の事務の繁閑の変化等常任委員会設置当時の事情と著しく異る事態が発生した場合には、「縣知事の權限に属する事務分掌部門」の数は從前の通りとし唯僅かに本件のようにその一部門に條例を以つて二箇の常任委員会を設置しても強ちこれを違法無効視しなければならない法律上の根拠は竟に発見することができないものといわざるを得ない。この見解が誤りでないとすれば青森縣知事の権限に属する事務分掌部門としてはまだ「商工部」「水産部」に二分されていない昭和二四年一二月二三日当時常任委員会のみが「商工常任委員会」及び「水産常任委員会」に分劃され一部門に配するに二箇の常任委員会を以つてしたからとてその後條例を以つて縣機構においても両者が截然二分された今日原告等主張のように本件改正條例案の議決が法律上不能の行爲乃至事項を目的とする表決であるから法律上当然無効であり從つて亦、この決議に基く本件改正條例、指名推選方法採用議決及び指名推選行爲も法律上当然無効であると断ずるは正当ではない。
次に常任委員の任期変更無効の抗弁につき一瞥するに、成程、地方自治法第一〇九條第二項中に「常任委員会は会期の始めに議会において選任し、議員の任期中在任する旨」の規定があり、各部門はその所管事務に老練堪能の人士を以つて構成してこそ日増しに膨脹複雜化する各部門特有の專門的仕事をも処理解決して遺憾なきを期することができ、委員を議員の任期中屡々更迭するようでは、徒らに、委員をして責任感を薄弱ならしめ、事務処理の能率を低下させ、無用の齟齬蹉跌を招來し委員会制度が設けられた趣旨にも背戻することは勿論であるから委員の頻繁な更替は嚴に戒めなければならないことは勿論であるけれども、委員が会期の始めに議会において選任された後、議員の任期満了までの間にその死亡、辞任、脱党、入党その他正当な事由により所属議員数に異動を生じた場合においてもそのまま放置して措かなければならないとすれば委員会の弱体化乃至偏党化を助長し、その弊害眞に憂慮すべきものがあるから前叙のような事態が発生した場合には例外として議員の任期満了前においても委員の数及び顏触に変更を加えることができるものとしなければならない。地方自治法第一〇九條第二項が「條例に特別の定がある場合は、委員は必ずしも議員の任期中在任するを要しない」趣旨を明かにし、又国会法第四六條第二項が委員の職責が、本件のような普通地方公共団体の議会の常任委員会の委員のそれに比し、遙かに重要な国会の各議院の常任委員会の委員すら「委員が選任された後各派の所属議員数に異動があつたため、委員の各派割当数を変更する必要が生じたときは、議長は議院運営会の議を経て委員を変更することができる」旨規定しなお又、衆議院規則第九二條但書が「議院の議決により委員の員数を増減し、又はその所管を変更することができる」旨明規しよつて以つて議員の任期中でも委員の数を増減しその顏触を一新することができる旨瞭然明確にした趣意も亦実にここに存するものといわねばならない。尤もこれに反し、国会法第一八條に「各議院の議長及び副議長の任期は各々議員としての任期による」とあり又、地方自治法第一〇三條第二項に「議長及び副議長の任期は議員の任期による」とあつて衆議院及び参議院竝びに地方公共団体の議会の各正副議長が議員の任期中、その意に反して、正副議長たる地位を剥奪されない趣旨を闡明している。これは委員の任務と、正副議長の職責との重大な差異から來る当然の帰結に外ならない。以上の見解にして誤りでないとすれば、本件のように青森縣條例を以つて議員の任期満了前委員(從つて又正副委員長)の数、從つて又その顏触れを変更する旨の規定を設けたからとて、他に特段の事情がない限りかような條例の改正議決が違法無効であると推断するを許さず從つて亦、該決議を前提とする本件條例、指名推選方法採用決議及び指名推選行爲をも法律上無効視し若しくは取消可能原因と做すことができない。
よつて進んで本件主要の爭点たる本件指名推選の効力如何につき覈量するに本件指名推選方法採用決議乃至指名推選方法施用当時施行されていた「青森縣議会常任委員会及び特別委員会條例」第五條第七條は「常任委員及び正副委員長は議長が議会に諮つてこれを選任する」旨規定している。そしてここに、所謂「議会に諮つて」とは「議会の議決を経て」即ち「地方自治法第一一三條、第一一六條により定数の半数以上の議員が出席して開かれた議会において、議員の過半数の賛成を得て」という程の意議に解するを相当とし從つて「かような選任については議長が單に議会の意思を聽くだけで足り議会の意思に拘束されるものではない」という見解は妥当ではないと共に「この選任は地方自治法第一一八條だけに則りこれを行わねばならない」と做す解釈も亦穩当ではない。この選任はこれを同條により行うことは無論合理的であり又理想的でもあるけれども、苟しくもこの選任方法を前叙議会の多数決により定める以上、必ずしも同條が命じるように(A)單記自書無記名投票又は(B)「指名推選の前後に議員全員の『無異議』及び『同意』を要する指名推選方法」によるを要せず、連記記名投票によると、將又「指名推選の前後に議員中異議を述べる者があつても單に議長において指名するだけで選任の効力を生ずる所謂簡略指名推選方法」を用いると或は又その他の方法に則するとを問わず議会の多数決による以上如何なる選任方法をも随意に定めることができるものと観ずるを正当とする。
被告等は「委員及び正副委員長の選任については本來議長にその主導権があるからその選任に際つては議長は單に議会の意見を聽取するだけで足り必ずしも議会の意見に拘束されるものではない」と抗爭するけれども、この見解は正当ではない。その理由は、地方自治法第一〇九條第二項に「常任委員は議会においてこれを選任する」とあつて、その主導権はどこまでも議会にあつて議長にないことを明瞭にしておりそして憲法第九四條が「地方公共団体は法律(從つて又地方自治法)の範囲内で條例を制定することができる」と規定し又この條規を母法として前叙のように地方自治法第一〇九條第二項が「常任委員は議会においてこれを選任する」と規定し更に又同法第一四條第一項が「普通地方公共団体(從つて又青森縣)は法令に違反しない限りにおいて第二條第二項の事務に関し條例を制定することができる」と規定し條例の制定可能範囲を、どこまでも憲法法律及び政令に違反しない範囲に局限しよつて以つて地方公共団体の越権沙汰を嚴に戒めかような行爲を第一義に当然違法無効視しているからである。
次に原告は「地方自治法第一〇九條第二項に所謂『選任』は、同法第一一八條に所謂『選挙』に該当する。少くとも、右『選任』に同條の準用若しくは類推適用がある。從つて本件指名推選は、同條第二、三、四項により行うは格別これらの規定を無視して爲された本件指名推選方法採用決議及び指名推選行爲は何れも法律上当然無効である」と主張し地方自治法関係に所謂「選挙」と「選任」との区別は法文上必ずしも明確ではなく些末の点では若干混淆している嫌いがないでもないけれどもその間又自らその区劃がないわけではない。即ち一般に地方自治法関係の法令は普通地方公共団体の議会で行う各種役員の選出を單記自書無記名投票による場合を「選挙」と名附けこの場合には地方自治法第一一八條第二、三、四項により典型的指名推選方法を採ることができる。これに反し議会が多数決を以て例えば常任委員会の委員及び正副委員長の選出を一定の條件の下に議長に一任して選出する等随意の方法により選出する場合を「選任」と呼んでいる。この場合には同法第一一八條所定の單記無記名自書投票又は全議員同意の指名推選方法によることができることは勿論であるが、これと異る方法例えば連記記名によることもできるし又全議員の同意の有無に拘らず指名推選だけで当選させるという方法を採ることもできるものと解するを相当とする。実際上最も多く観る例は、委員及び正副議長の選出につき議員間で事前に、各派交渉会を開き各派所属議員数の比率により各派に委員及び正副委員長の数及び顏触れを割当て措き、議長が本会議で唯この決定事項を読み上げるだけで選任の役目を果す場合である。更に詳言すれば衆議院規則第三條(議長選挙)第九條(副議長選挙)第一五條第一項(常任委員長選挙)第一六條第一項(事務局長選挙)及び参議院規則第四條(正副議長選挙)第一六條第一項(常任委員長選挙)同様地方自治法第一〇三條(正副議長の選挙)第一八二條(選挙管理委員及び補充員各選挙)第一八七條第一項(選挙管理委員長選挙)は何れも当該議会における叙上の役員の選出を何れも「選挙」と称し、なお又国会法第四一條第四六條(常任委員及び特別委員各選任)、衆議院規則第一五條第二項(常任委員長選任)、第一六條第二項(事務総長選任)及び参議院規則第一五條(常任委員選任)第一六條第二項(常任委員長選任)同様地方自治法第一〇九條第二項(常任委員選任)第一六二條(副知事及び助役各選任)第一九六條第一項(選挙監査委員選任)は当該議会における叙上の役員の選出を何れも「選任」と呼んでいる。由是観之均しく議会に於て行う一定の役員の選出に於て、比較的重要な役員の選出は原則として「選挙」によるを要し、唯比較的重要でない役員を選出する場合竝びに比較的重要な役員を選出する場合であつてもその選出が所謂各派所属議員数の比率割当方法等により公正円満に行われ得る見込がある場合には例外として「選任」の方法によることができるものと解するを妥当とする。この見解は亦地方自治法第一一一條が「第一〇九條に定めるものを除く外、常任委員会に関し必要な事項は條例でこれを定める」と規定し同法第一〇九條第二項に所謂「常任委員は議会においてこれを選任する」以外の委員選出等に関する具体的規範の新設を全部條例に讓つている点からも輒くこれを是認し得る所でなければならない。そして今若し、この解釈にして妥当だとすれば、本件において青森縣議会常任委員会の委員及び正副委員長の選任につき「議長の指名推選の前後に議員に異議があると否とを問わず單に議長の指名推選だけで当選の効力を生ずる」という所謂簡易指名推選方法採用案が議会で多数決により採択され議長が該議決に基き委員及び正副委員長の氏名を読上げ推選を了したとしても、他に特段の事情があれば格別、單にかような事実の存在だけでは右決議又は指名推選が原告等主張のように同法第一一八條第二、三、四項所定の典型的指名推選方法の施用を蝉脱する目的で爲されたもので法律上当然無効であり又は取消の対象と成り得るものであるというを得ない。(尤も本件において叙上のような「選任」方法、從つて又簡易指名推選方法を用うれば足る場合でも議長に於て可及的各派所属議員数比率割当主義を採用し地方自治法第一一八條第二、三、四項の形式を履践してこそ地方自治体の議会の機構を円満自在に発揮することができ、「選任」は「選挙」ではないから簡易手続で沢山だという老獪な気安めから反対派の言論を当初から封じ一挙に自派が当選を欲する委員又は正副議長の選任を敢行しようとして指名推選の前後に反対派議員達から猛烈な異議続出し議場が到底收拾することができない混乱状態に陷つているに拘らず、遮二無二多数決で押切り所期の目的を遂げるというやり方は固より民主議会の眞の姿ではあり得ない。この点につき、成立に爭がない乙第一三号証によれば、昭和二三年三月二四日開かれた青森縣議会においては議長が常任委員及び正副委員長の選任につき、地方自治法第一一八條第二、三、四項所定の所謂典型的指名推選方法を施用したことを認めることができ、原告等の全立証を以てしても右認定を搖がすことができない。そして議長がかような方法を用いてこそ始めて民主議会の運営が円融無礙に進展し主権在民の眞の姿乃至使命を顕彰達成することができるものといわねばならないことは勿論である。)
次に原告等は、「仮りに本件改正條例が有効に成立し即時告示施行されたものとしても、從前の六部門の委員及び正副委員長がその地位を失う謂われがないに拘らず、失つたことを前提としてなされた本件各指名推選方法採用決議及び指名推選行爲は法律上当然無効である」旨主張し、右改正條例において、單に部門別だけの観点に立てば、從前の「民生、衞生、労働」部門は「民生」「衞生」「労働」三部門に、「経済、商工、水産」部門は「経済」「商工」「水産」三部門にそれぞれ分割され從前の「教育」部門が「文教」部門に改称されただけで、從前の「総務」「土木」「農地」各部門自体は別段分離併合、改称されたものでないことは勿論であるけれども、本件改正條例により從前の六部門が一〇部門に拡張されると同時に、一部門の構成委員「二〇名以内」が「一〇名以内」に削減され、部門数の増加に引換え委員数が減少した以上、今この新組織全般の陣容を整備しようとすれば必然的に旧組織の人的設備全体を一應解消して新規蒔直しの手段に出る以外方法はあり得ない。即ち旧六部門の委員一二〇名(実際は八八名)を一〇〇名(実際は八六名)に縮減し、新一〇部門にこの一〇〇名(実際は八六名)を配置しなければならないところ、旧部門の委員中誰を居坐らせ、誰を新部門の委員に配置するかは、そんなに生易しい問題ではない。そこに各部門の政治的重要性の大小を繞つて議員間に深刻な利害の葛藤、情実の衝突が釀し出されるであろうことは洵に明白で叙上のように委員数を減少し委員の配置を轉換することは、実際上からいつても又技術上から観ても到底実現不能の業であり結局、旧六部門の全委員一二〇名(実際は八八名)を一應罷めさせこれを新一〇部門の部門別委員に(実際は七名乃至九名宛)組替えるより他、施す策はあり得ない。
そして正副委員長も亦議長が「議会に諮つて」即ち議会の協賛を経て当該部門の委員中から、これを選任しなければならないから(前記條例第七條)以上全部門の委員の数及び顏触れが一新した以上、從前の正副委員長も恬然その職に止まるを得ず結局更始一新しなければならないことは勿論である。
よつて原告等の主張は竟に採用に値しない。
よつて更に進んで権利濫用の主張の当否につき吟味するに
(1)成立に爭がない甲第一乃至七、同第八、九号証の各一乃至四に被告青森縣議会代表者櫻田清芽本人訊問の結果の一部を参酌綜合すれば昭和二四年一二月二三日午後二時四〇分政友クラブ所属議員に二八名(外に同上所属議員たる議長一名)及び反政友クラブ派議員一一名出席の下に開かれた、青森縣議会常例会において、政友クラブ所属議員松尾節三外同上所属議員二九名の発議に係る本件「青森縣議会常任委員会及び特別委員会條例中改正の件」が上提され、その内容は前認定のように「民生、衞生、労働」部門を「民生」「衞生」「労働」三部門に、「経済、商工、水産」部門を「経済」「商工」「水産」三部門に各分岐独立させ又、一部門構成委員「二〇名以内」を「一〇名以内」に縮減するというように從前の委員会制度を一應御破算にして新たに根本的に建直すにあり、從つて議員の審議権を十分尊重し民主議会の機能を十二分に発揮させなければ到底円満妥当な解決点に到達することができなかつたこと。
(2)然るに発議者の代表者且つ政友クラブ所属議員たる松尾節三が提案理由の説明に衝つたところ論旨簡單不徹底、理解至難であつたから、反政友クラブ派議員等はこれに慊らず、その一員たる原告柴田議員が議長の許可を得て発議者に「部門数の拡張、構成部員の減少については法律上相当疑義があり、且つ部門の増設は予算の膨脹を伴わないか」と質問すると発議者の一人政友クラブ所属議員鈴木禮において議長の許可を得て「答弁無用、討論打切り、即時採決」の動議を提出、これに憤激した反政友クラブ派議員等が「議長、議長」と連呼して発言を求めても、議長櫻田清芽これを許さず、ために、離席して議長席に迫る議員、これを制止するため演壇に馳け登る議員等続出し、議場が喧騷混乱に陷つたが議長はこの間右動議の採否を議員の起立に問い出席議員の過半数に該る政友クラブ所属議員の賛成を得て、これを採択し反政友クラブ派原告佐藤、柴田、岩淵三議員がなお議長に、質疑を封じて、採決に入るの非を糺すや議長は「見解の相違、答弁の要なし」と突つ撥ね、議場怒号騷然裡に、議長は右改正條例議案の賛否を議員の起立に問い前同様出席議員の過半数に該る政友クラブ所属議員の賛成を以つて該議案が可決され成立したこと。
(3)かようにして小憩の後同日午後四時四五分開かれた同議会において、反政友クラブ派原告佐藤、岩淵、柴田三議員が同議会に議長櫻田清芽不信任案を提出したが、仮議長政友クラブ所属議員松尾節三がこれ又、提案理由の説明をすらさせないで言論を封じ議場喧々囂々裡に賛否を議員の起立に問い、賛成者は出席反政友クラブ派議員若干名だけで該議案が否決されたこと。
(4)同日午後一一時五分開かれた同議会で櫻田議長は同日これより曩原告岩淵、木村、伊藤、柳沢、相馬、菅原、淡谷、三浦、佐藤、三上、柴田の一一議員が議員が議長宛に書留でしておいた緊急質問通告には一顧だも與えず開会劈頭、議長において本件改正條例による常任委員を指名推選することの可否を議場に諮り原告柴田議員がこれに異議を唱え且つ発言を求めるや議長は一且発言を許し乍ら、直ちにこれを取消し、叙上委員を議長の指名推選により選任するかどうかを議員の起立に問い、前同様出席議員の過半数を制する政友クラブ所属議員の賛成を以つて該議案が可決され直ちに議長は別紙名簿第一表記載のように一〇部門の常任委員八六名の氏名を読み上げ推選したこと。
(5)これに引続き議長は議長において本件改正條例による正副常任委員長を指名推選することの可否を議場に諮り、原告柴田議員がこれに異議を述べるや、議長は右正副委員長を議長の指名推選により選任するかどうかを議員の起立に問い、前同様出席議員の過半数を制する政友クラブ所属議員の賛成を以つて該議案が可決され直ちに議長は別紙名簿第一表記載のように一〇部門の正副委員長二〇名の氏名を読み上げ推選したこと。
(6)以上各指名推選後、議長は、被指名人を以つて当選人とするかどうかを全然議会に諮らず唯当時若しこれを議会に諮つたならば反政友クラブ議員において挙つて異議を唱えたであろうことは想像に難くはないこと。
(7)以上のような手続を経て指名推選された委員及び正副委員長の各派別割当数を一瞥するに
(イ)縣政全般の中樞機能に関する事務を所管事項とする総務常任委員会委員九名中八名
(ロ)農地改革推進事務を所管事項とする農地常任委員会委員八名中七名
(ハ)罹災都市復興国土再建事務を所管事項とする土木常任委員会委員九名全部
は何れも政友クラブ所属議員を以つてこれに充て、「民生」「衞生」「文教」等比較的軽視されている部門の常任委員会の委員のみ反政友クラブ派議員を以つて補填され、しかも正副委員長計二〇名は全部政友クラブ所属議員でこれを独占し反対派議員は一名も顧慮されていないこと。
(8)本件各指名推選方法採用決議及び各指名推選行爲は畢竟政友クラブ所属議員において、「総務」「農地」「土木」各部門常任委員会の委員のような縣政運営上比較的重視されている委員は殆んど全部、又一〇部門の常任委員会の正副委員長は全部これを自派議員を以つて固めようという非民主的魂膽から出たものに外ならないこと。
を何れも明認するに足り、被告等の全立証を以つてしても右判断を左右するに足りない。
惟うに、自由(特に言論の)平等(特に公職就任機会均霑の)は実定法の制定を俟つまでもなく、既に業に個人の先天的固有の権利であり、憲法その他の法令は、唯この権利を再認保障するに過ぎない。そしてこの法理は個的にいえば洵に個人の尊嚴の問題であり全的に観れば実に主権在民の思想に外ならぬ。そこで議会は国民乃至都道府縣市町村民の縮図であり又各種委員会は更に議会の縮図であると同時に逆に又「全」は「個」の累進的拡大鏡でなければならない。「個」即「全」。「全」即「個」。個人の尊嚴と公共の福祉との弁証法的止揚綜合発展こそ、民主議会の眞の歩み乃至新使命でなければならぬ。国会法第四六條が国会の常任委員及び特別委員の選任につき終始一貫して各派所属議員数比率割当制度を堅持している点は應に這般の消息を具象的に成文化したもので洵に適切恰当の挙措といわざるを得ない。ところでこの点につき地方自治法第一〇九條第二項第一一一條は、唯、「普通地方公共団体の常任委員会の委員は議会においてこれを選任し、委員会に関するその余の必要な事項は條例でこれを定める」旨規定するに止まり、各派所属議員数比率割当制の採否を明文化していない。がしかし立法者は普通地方公共団体の議会の特殊性に鑑み、かような制度を地方議会にまで強行するときは、却つて議会の運営に不便を感じさせる場合がないでもないという理由から国会法第四六條のような明文を設けなかつたまでで本來これが採用を禁じたわけではなく否、寧ろ一般にこの制度の趣旨で常任委員が選任されることを当初から予想していたため特に蛇足を加えなかつたまでだと解するを相当とする。換言すれば元來普通地方公共団体の議会の議員は国会議員に比しその数は少く党派性も亦強靱深刻ではない。朝に甲党に属し夕に乙派に走るものも決して稀ではない。その所管事項も亦地方的利害の檢討審査を主眼とし廣く天下国家の問題を対象とするものではない。從つて地方議会に「割鷄用牛刀」式に各派所属議員数比率割当制を大上段に振り翳し折角発芽して成長途上にある新芽を萎微させるよりも寧ろ同議会に臨機應変、随時随所にその運営に時代色と地方色とを交錯運営させ、これに機動性創造性を持たせてこそ自主民主議会を育成し伸張させる所以でありこれこそ眞箇の意味における叙上比率割当主義の顕現に外ならないと思惟したからに外ならない。ここを以つて今若し普通地方公共団体の議会において多数派が数を頼み少数派を圧迫排除する手段として叙上明文の欠如を口実に常任委員会の正副委員長全部及び重要な部門の常任委員会の委員の大部分を自派で独占するようでは前記地方自治法の少くとも精神に背反し自治民主魂を冐涜するものといわねばならない。
ところで條例の制定改廃は地方議会の最も重要な議決事項であり(地方自治法第九六條第一項第一号)特に本件のように常任委員会の組織を拔本塞源的に変革する場合には、議長及び各議員はその職責の重大なことを自覚しその任務の遂行に万遺憾なきを期し殊に議長は衆議院規則第四五條、第一一八條、第一三七條、第一六五條、第一六六條、第一六八條及び参議院規則第九三條、第一〇八條、第一〇九條、第一一〇條、第一一三條、第一一六條、第一四九條、第一五一條等、言論の伸張、審議の充実及び民主的議事の運営を内容とする規定の精神を十二分に酌んで提案理由の説明、質疑應答、審議など凡そ表決の前提となる一切の議会活動をする機会を各派議員に公正平等に與え以てこれらの議員が全力を挙げてその職責を全うすることができるよう万般の措置を講ぜねばならないことは勿論である。然るに本件において叙上のように本件改正條例の議案の発議者たる政友クラブが委員及び正副委員長の選任につき只管局面を自派に有利に展開したいという一念から議案を議会に上程したまゝ提案理由をすら碌々説明させず議長又故意にこれを促さず却つて議員の発言質疑を封じ去り全然審議未了のまま一挙に表決に移し議案が多数派の賛成を得て可決し去られ次いで反対派議員が議長の非民主的議事進行態度に不満を抱き議会に議長不信任案を上程するや政友クラブ所属議員の一名たる仮議長が提案理由の説明すらをも許さず即刻採決に移して否決させ次いで開かれた議会において開会劈頭議長自ら委員及び正副委員長の選任を議長の指名に一任されたしと諮り反対派議員の発言許可要求に耳を藉さず即刻表決に移した結果政友クラブ所属議員が数を頼みこれらの提案を一挙に可決し、ここに議長は予て政友クラブ所属議員間で打合せ決定して措いた筋書通り委員及び正副委員長の氏名を読み上げよつて以つて議員の審議権を剥奪し議事を空轉させ、青森縣議会政治運営上重要な「土木」「総務」「農地」各部門の常任委員会の委員は全部若しくは大部分又一〇部門の常任委員会の正副委員長は全部政友クラブ所属議員を以つて独占するに至つたことは議長及び政友クラブ所属議員において畢竟党利党略のため、知性を失い議会がその拠つて立つ民衆の縮図であることを全然忘却し多数決主義の弊害を如実に暴露し議会政治を否認する以外の何物でもない。かような議事の運営は應に新時代の民主的風潮に逆行することは勿論で多数派の独断專恣を防止するため折角設けられ新憲法地方自治法その他の関係法規の精神を蹂躙するものといわねばならない。果してそうだとすれば終始一貫度重なる議長の偏頗な議事進行権及び多数派の党利党略本位の表決権のみによつて運営された非民主議会の議長のした本件各指名推選行爲は竟に講学上所謂権利の濫用であり他に特段の事由がない限り到底取消される運命を免れない。
原告は右各指名推選行爲は法律上当然無効である旨主張するけれどもこれを例えば(イ)議長が、議会の指名推選を議長に一任する旨の議決がないに拘らず独断で本件のような指名推選行爲を敢てした場合の指名推選(ロ)普通地方公共団体の議会の正副議長選挙(地方自治法第一〇三條第一項)の場合苟も指名推選方法を用いる以上、地方自治法第一一八條第二、三、四項所定の所謂典型的指名推選方法によらねばならないに拘わらず仮議長等が議員中に異議を述べる者が続出しているのにこれに耳を掩い敢て指名推選行爲に出て更に議員中に右被指名人を以つて当選者にすることに賛意を表しない者があるに拘らずこれに頓着せず被指名人を以つて当選者と決定した場合の当選等、権限のない行政廳が行政行爲をした場合その他行爲の要素に別段権限廳の取消を俟つまでもなく致命的欠陷の存する場合即ち所謂能力規定に違背する場合は該指名推選行爲を無効を以つて論じなければならないことは勿論であるけれども本件のように、指名推選行爲自体が兎も角議会の指名推選方法採用決議に基いて爲された場合には本來権限のない行政廳のした行政行爲と同日に談ずるを許さず、唯本件指名推選行爲がそのここに到つた前叙非民主的経緯に鑑み、権利濫用即ち越権沙汰を以つて目さねばならないというに過ぎず、換言すればかような瑕瑾は行政行爲の兎核に蟠まる奪命的毒素ではなく、その周辺外廓即ち遠由に蠢く漫性の病菌に過ぎないから本件指名推選行爲を法律上当然無効ならしめる欠陷ではなく單に取消の原因たるに止まるものと解するを正当とする。
しかのみならず、行政行爲の無効取消は私法上の法律行爲の無効取消と異る。無効は何人から、何人に対しても何時でも(例外地方自治法第六六條衆議院議員選挙法第八二條参議院議員選挙法第七三條各所定の選挙無効当選無効等)対抗することができ、取消は、取消されるまでは有効で取消を俟ち行爲の当初に遡つて無効となるという点は同じであるが、行政行爲の取消は私法上の取消と異りその効果は絶対的で取消を以て正当な利害関係を有する善意の第三者にも対抗することができ從つて訴訟判決上無効確認と取消とは実際上殆んど区別があり得ない。(かような見解が是認されてこそ始めて行政処分の無効確認訴訟についてもその取消訴訟についてと同様行政事件訴訟特例法第一一條の「違法行政処分の取消が公共の福祉に適合しないことを理由として請求を棄却することができる」旨の規定を準用若しくは類推適用し得る根拠を発見することができるわけである。)
なお被告等は行政行爲については、私法上一般に肯定されているような権利濫用の法理を援用し得る余地は全然存しないと弁疏するけれども由來、公法といつても又私法と名附けてもその保護する人間の奧底の利益、窮極の要求において寸毫も異る所はない。均しく人間生命の維持、発展に役立つ権益の唯一且つ最終の担保力に外ならない。両者は唯因襲の隋性、取扱の便宜分離のための分離から一應区別されているに過ぎない。人間の創造的、生命活動において道徳即ち神と惡魔との戰の問題に触れないものは一もあり得ない。実に道徳問題こそ人間生活の中心問題であり一切の法的軌範のよつて生まれる唯一最終の源泉に外ならない。公法といい、私法と名附けてもその窮極の根源に遡れば、法然の所謂「同じ谷川の水」に外ならない。これ、権利濫用の法理は独り私法の領域だけで通用し、公法の範囲では当嵌まらないというような差別的待遇をすることを愼しまねばならない所以であり、所謂公法上明文を以てかような区別を設けない理由も亦実にここに存する。(講学上西欧では夙に両者の区別の撤廃が叫ばれ近時わが国の学者中にも亦これに耳を傾ける者が続出して來た理由も亦ここに在るものといわねばならない。)
尤も被告等はなお仮定抗弁として仮に公法関係についても権利濫用の法理を援用することができるものとしても、原告等こそ機会均霑、更始一新の申合せを無視し、重要部門の常任委員会の、委員及び正副委員長の椅子を固執して讓らず本件改正例議案及び各指名推選方法採用議案の審議を未了に終らせようと画策し以つてその審議権を濫用したものであるから本件指名推選の瑕疵を詮議立てする権利がどこにもないと抗爭し成立に爭がない乙第一三号証甲第九、第一〇号証の一乃至一一、第一一号証の一乃至六証人四戸徳藏の供述被告青森縣議会代表者櫻田清芽本人訊問の結果を綜合すれば、青森縣議会に、常任委員制度が設置されるようになつてから各議員に委員又は正副委員長として民主々義の発展のため議会の縮図たる委員会で自在に活動する機会を均等に與え、なお更始一新委員会の沈滯した空気を一掃してこれに新鮮な活力を補給するため委員及び正副委員長の任期を一年ごとに更新する旨予て委員間に了解乃至申合せが成立しおり、昭和二二年度及び二三年度は大体この申合せの線に從い委員及び正副委員長の顏触れが決定就任し、殊に昭和二三年三月二四日開かれた議会においてはこの選任を満場一致議長の指名推選に一任し、これに基き議長が所謂各派所属議員数比率割当方法により指名推選をし右推選後も満場これに賛同し眞に和気靄々裡に選任を完了し以つて民主議会の本領を遺憾なく発揮することができたに拘らず昭和二四年一二月二三日開かれた議会常例会においては委員の選任については流石に各派間に稍々交渉が進展したが正副委員長殊に「総務」「土木」「農地」各常任委員会の正副委員長の椅子を繞つて政友クラブと反対派との間に深刻な利害の対立を釀し双方容易に讓歩する色が観えなかつたため、円満無礙な指名推選手続を追行するを得ず、竟に本件條例の改正決議、指名推選方法採用決議、及び指名推選という一連の手続を践むに至つた事情を認めるに至り原告等の挙示援用に係る全証拠を以つてしても右認定を覆すことができない。そしてかような拙い結果に立ち至つたことについては反政友クラブ派議員にも若干の過責があることは勿論であり、この限りにおいて政友クラブの行動につき一掬の宥恕すべき点がないでもないけれども、さればといつて叙上の事実だけでは前認定のような政友クラブの傍若無人の非民主的振舞を正当化する資料とするに足らずその他これを合理化する根拠は何処にも発見されない。反政友クラブ派議員の議会人としての行動に若干反省すべき点があるからとて本件のように他数派が只管党略本位から数を頼み小数派の言論を圧迫しその審議権を剥奪し即決即行恰かも無人の境を行くような有様は折角永い眠りの後新時代の要請により大地から眼醒め萠え出た主権在民自由平等の議会政治の新芽が成育を俟たないで既に萎縮枯死するの外はないであろう。これ論旨はその理由を欠如するものといわざるを得ない所以である。
次に公福不適合による請求棄却の判決の抗弁につき考察するに行政事件訴訟特例法第一一條の「行政処分取消乃至変更請求訴訟において処分が違法であり本來請求が認容されねばならない場合においても裁判所が諸般の情勢から観て処分を取消乃至変更することが却つて公共の福祉に適應しないと認めたときは請求棄却の判決をすることができる(ここに所謂『することができる』は『しなければならない』と解しなければならない。そうでなければ裁判所が公共の福祉に適合しない取消乃至変更判決をもすることができ、裁判所自ら公共の福祉に應わしくない行動をする結果となり憲法の建前に牴触するに至るからである)。」旨の規定は訴訟法上驚天動地ともいうべき劃期的変革規定で一般原則の例外の例外を成すもので本來われわれ民衆の法的情感乃至叡知的悟性に應響しないところのものであり、なお又、この規定は、個人の公法上の権利を国家社会の一般利益即ち公共の福祉の犧牲に供しようという滅個拯全の思想に胚胎するものでもあるところ、何が所謂国家社会の一般利益であるかは領る不明瞭で一歩その標準を誤るときは既に業に久しい以前から西欧諸国で「正義公平」「信義誠実」「自由平等」「国利民福」「公序良俗」というような極めて簡單な「一般條項」だけの文言の存在のため、嘗め盡して來た、塗炭の苦惱を民主主義の喧しく叫ばれている当今しかもわが国において再現しなければならない破目に陷らねばならない。公的権力の把持者が国利民福に毫末も影響するところのない事項否孜細に檢討すればこれに反している点をすら発見することができるような事柄についてまで「公共の福祉」の標号を掲げて個人の公私一切の権益を侵害して恥じず、少くとも侵害する虞れがある理由も、要するにかような一般條項を設けただけでその具体的運用につき妥当な標準を示さず、否示す能力がなく個々の取扱の基準を行政廳の專権に委ねているからに外ならない。嚴格にいえばかような一般條項の具体的精神乃至眞底の発見運用はわれわれ人間の到底克くする所ではなく当路者が偶々その妙味を発揮することができたとしてもそれは唯一個の奇蹟に外ならない、といわざるを得ない。併しながら、立法者が一旦明文を以つて「公共の福祉」という一般條項に適合しない場合の措置を講じた以上該條項の具体的規範を発見しその琴線に触れるよう凡そ人間の達し得る最高限度の叡知良識を傾け精魂を盡し、誠心神意自己の眞善美と信ずる所に向つて邁進するの外はないことは多弁を俟たない所である。そこで今この心底に立つて観ずるに
(一)先ず今本件指名推選行爲を取消してみても新に行われる指名推選行爲において議長が果して国会法第四六條所定の各派所属議員数比率割当制の精神を体して公正円満な行動を採ることができるか、どうかは前叙経緯に徴し甚だ疑わしい。そこで勢い議会が本件指名推選行爲の基礎たる指名推選方法採用議決をも取消し本件委員及び正副委員長の選任を総ゆる選任方法中最も公平だと称せられている單記自書無記名投票により行うものとする。
(1)先づ本件総議員四五名(議長及び副議長も各一票の選挙権がある)が一〇部門委員八六名(総議員四五名から議長及び副議長を除いた残議員四三名が各二個の委員に選任されるものとする)を一時に選挙する場合を想像するに、両派が重要な部門の委員を自派の議員から選任しようとする結果、両派の投票は先づ「土木」「総務」「農地」三部門の委員を狙つて集中する。この場合政友クラブ派所属議員三一名が結束して、「土木」「総務」各部門の委員各九名計一八名を獲得するため、一票宛を一三名に、一票宛を五名に投ずる間隙を縫つて反政友クラブ派議員一四名が一致して「農地」部門の委員八名の当選を目指して二票宛を六名に一票宛を二名に投ずるときは、政友クラブが「土木」「総務」両部門の委員を全部独占する代りに反政友クラブ派も又「農地」部門の委員を全部独占することができる。即ち両派は大体二対一の割合で自派の欲する部門の委員を獲得することができる。そして正副委員長は、各該当部門の委員からこれを選出すること、前認定の通りであるから両派は大体二対一の割合で自派から正副委員長をも選出することができる。
(2)次に本件総議員四五名が一〇部門の委員八六名を部門別に順次選挙する場合を檢するにこの場合も両派が重要な部門の委員を自派の議員から選ばうとする結果重要部門の委員の選挙の時期如何によりその戰術を変えるであろう。例えば(A)先づ「土木」部門の委員九名が選挙される場合には両派は何れも自派議員からこれを選ばうとして政友クラブ所属議員三一名が四票宛を七名に、三票を一名に投ずる間に反政友クラブ派議員一四名は五票宛を二名に四票を一名に投ずるときは両派は大体六対三の割合で委員を獲得することができる。そして(B)重要部門の委員の選挙が後れて行われる場合にはこれより先に行われる重要でない部門の委員の選挙に際し各派議員が棄権し又は反対派の議員に投票して自派の投票を後に行われる重要部門の委員の選挙投票に集中し若しくは反対派議員が重要部門の委員に選任される機会を減少させよつて以つて局面を有利に展開しようと図る。だがしかしこの場合でも両派が相互に同一戰法を採る場合には(A)の場合と結果において大差はないであろう。これを要するに本件のように両派の議員数が三一対一四である場合には(イ)部門の数(ロ)一部門構成委員の数(ハ)部門の重要性の段階の数(ニ)投票の時間(ホ)選挙議員数と被選挙委員数との割合(ヘ)結束の度合如何により投票の結果に次のような差異を生ずることは、数の免れ得ない所である。
特殊事情
部門の数が多い場合
一部門の構成委員数が多い場合
一〇部門の重要性の段階数が多い場
全部門の委員を同時に選挙する場合
委員を部門別に順次選挙する場合
選挙議員数が被選挙委員数より少い場合
結束が不安定な場合
政友クラブ
不利
不利
利
不利
利
不利
不利
反政友クラブ派
利
利
不利
利
不利
利
利
即ち本來選挙につき最も公正妥当な方法だといわれている單記自書無記名投票により選挙してみても理論的要因の他偶発的事項がその結果を左右する場合が少くない。「手法の妙」は「論理の透徹」だけでは得られない。選挙が「水ものだ」といわれる所以は実にここに存する。
由是観之、本件において常任委員及び正副委員長の選任を單記自書無記名投票で行つてみても、両派が重要部門の委員及び正副委員長を獲得する割合は蓋然的には二対一ではあるが固より確率的ではなく偶然性の支配する限り若干の異同を免れ得ない。從つて普通地方公共団体の議会で行う委員及び正副委員長の選任は結局各派が私を去り公に就き和衷協同、所謂各派所属議員数比率割当方法による以外差当り良い方策を発見することは困難であろう。
(二)本件指名推選方法による委員及び正副委員長の選任後定足数の新任委員及び正副委員長出席の下に(但し総務常任委員会の副委員長だけは欠席)
(1) 昭和二五年二月 七日 土木常任委員会
(2) 同月一三日 水産常任委員会
(3) 同月一四日 文教常任委員会
(4) 同月一八日 農地常任委員会
(5) 同月二〇日 総務常任委員会
(6) 同月二一日 経済常任委員会
が開かれ、何れも、請願、陳情等を審議表決議会に報告し、なお差当り昭和二十五年度青森縣予算その他の重要な議案審議は新常任委員会の活動に期待するところ甚大なものがあることは被告青森縣議会代表者櫻田清芽本人訊問の結果に徴し、これを認めるに足り、原告等の全立証を以てしても右認定を覆すことができない。
(三)常任委員会は成法上又実際上民主議会の縮図として議会活動の前奏曲を形成し近時議会の権限の膨脹所管事項の増加運営の複雜化に比例して愈々その重要性が累加し、議会活動の成果如何は一に繋つて委員会の運営の良否にあり、從つて折角整つた新陣容は他に特段の事情がない限り今これを軽卒に変更することは議会政治の進運を阻害し、角を矯めて牛を殺すの悔を残し、延いて三権分立の精神に反し司法権の行政権に対する干犯の譏りを免れ得ない。
(四)青森縣議会議員の任期四年の大部分は既に業に経過し議員の任期中だけ存在する新常任委員及び新正副委員長の任期は残すところ僅かに一年内外に過ぎないことは当裁判所に顕著な事実であり、從つて今これらの役員の地位を本件指名推選当時に遡及して剥奪し更に頗る厄介な手続(各派が我を折り和衷協同の精神に出ることは蓋し至難の業であるから結局煩瑣な選任手続を繰り返さなければならないであろう)を経て新陣容を建て直してみた所で新役員の活動期間は極めて短く、結局これら新旧両役員ともその任期中殆んど実蹟を挙げるまでには到らず虻蜂取らずに了り、跡に残るは唯葛藤、軋礫の歴史のみという結果に立至ることは必定でありかくては委員会の機能は麻痺停止し議会政治に及ぼす影響洵に恐るべきものがある。
そして叙上(一)乃至(四)のような事情が存在する以上、本件において、所謂権利濫用の理念及び事実に拘泥して青森縣議会議長のした本件各指名推選行爲を今遽かに取消し新たに面倒な投票又は指名推選方法により常任委員会の構成員の顏触れを変更して、委員会の陣容を一新することは「狂瀾を既倒に廻らす」底の困難ではないにしても、手続その他の点においても相当不経済であり決して望ましいことではない。傳家の宝刀は潮時を俟たないで拔くときは徒らに両派を剌戟して摩擦を激化させ、延いてその間縣議会政治に通常の手段では到底回復することができない空白を生じさせその運営が空轉するに至るであろうことは想像に難くはない。そこでかような場合には、強いて今遽かに前叙指名推選行爲を取消すよりも寧ろこれを差控え折角曲りなりにも建て直された新陣容をそのまま整備充実させ各委員及び正副委員長をしてその職域の重且つ大なる所以を篤と自覚させ緊褌一番滅私奉公の誠を致させよつて以つて偶々議会史上に心ならずも残した汚点を拂拭させ、失墜した民主議会の信頼を回復させるに如かず、そしてかような場合こそ應に行政事件訴訟特例法第一一條第一項に所謂「行政処分の取消が公共の福祉に適合しないとき」に該当するものといわねばならないから、原告等の本訴請求は竟に棄却される運命を免れない。
(尤も叙上のように原告等の本訴請求が相立たなかつた理由が毫も請求自体の瑕疵にあるのではなく請求自体は理由があるがこれを認容することが偶々公共の福祉に副わないというにある場合換言すれば原告等の個々の公法上の権利を加護してその職域に盡粹させることは民主議会の発達に欠くべからざる措置ではあるがこの処置に徹するときは時に一般民衆の福利公益を犧牲にしなければならない破目に立至るから、かような弊害を防止し国利民福のため原告等の権利行使を一と先づ差控えるを相当とするというに在る場合は本件各指名推選行爲の違法性は毫も消滅したわけではない。どこまでも附纏い本來抹殺さるべきものではない。個人の基本的公権が全民衆の幸福のため犧牲に供されても右幸福と共に弁証法的に止揚綜合されるに止まり固より滅却清算されたものではない。この綜合の発展過程において血と成り肉と成り内包的超越を通じ到る処に顕現実存する。從つて原告等は本訴において議長のした指名推選行爲の取消だけはこれを求めることはできないとはいえその他の権利は総てこれを行使することができなければならない。即ち原告等は被告青森縣議会に対し本件各指名推選により被つた有形無形の損害の賠償を請求することができることは勿論で右指名推選と相当因果関係の存する限り本訴請求につき訴訟代理人等に支拂つた金員等の如きをも損害額として計上することができることは講学上多く異論のないところである。)
最後に訴訟費用の負担義務如何について審按するに本件訴訟費用中原告等と被告青森縣議会との間に生じた部分が同被告においてこれを負担しなければならないことは、本件に適用される行政事件訴訟特例法第一一條第三項が「損害賠償の請求をすることを妨げない」と規定しここに所謂「損害」中に右訴訟費用をも包含すること勿論である点からも明白であるけれども本件訴訟費用中原告等と被告等一〇部門常任委員会との間に生じた部分の負担義務については若干疑義が存する。思うに前叙のように、被告青森縣議会は訴訟上一個の権利義務主体として自己の名において訴え又は訴えられる権能を有するけれども被告等一〇部門常任委員会は何れも議会の一分肢一手足即ち一部分に過ぎずそれ自身は訴訟法上議会と離れて独立固有の主体性を保有するものではない。即ち自己の名において訴え又は訴えられる権能を有たず、訴訟当事者としての適格を全然欠いている。從つてかような一〇部門常任委員会を被告として提起された本訴は應に権利保護要件を具えないから理由がないという理由で棄却される運命を免れない。果してそうだとすればその訴訟費用は行政事件訴訟特例法第一條民事訴訟法第八九條第九三條に則り敗訴の当事者たる原告等においてこれを負担しなければならない義務があるように一應観える。だが併し、今若し本件違法な指名推選行爲がなかつたならば原告等において本件一〇部門常任委員会を被告として訴訟を提起する必要がなかつたことは勿論でなお、本件事案のような事実上及び法律上相当複雜難解な問題を含んでいる法律関係の訴訟沙汰においては何廳を被告として行政行爲の取消を求めればよいかを究明することは、相当骨の折れる仕事であるから原告等は本件一〇部門常任委員会を被告として本訴請求に出たことについても毫も過失がなかつたものといわざるを得ない。從つてかような訴訟によつて生じた費用も亦行政事件訴訟特例法第一一條第三項の趣旨に則り被告青森縣議会に負担させるを相当とする。但し本件において被告一〇部門常任委員会の攻撃防禦方法の提出乃至証拠の申出でその他一切の訴訟行爲は殆んど全部被告青森縣議会のそれと共通一体の関係にありこれと分離して別個に存在するものではない。これと別個に存在するものは強いていえば唯本件一〇部門常任委員会宛訴状一〇通に過ぎない。そして右共通一体部分の訴訟費用は前認定のように原告等と被告青森縣議会との間に生じた訴訟費用として同被告が單独で負担しなければならない建前になつているから原告等と被告一〇部門常任委員会との間に生じた訴訟費用は結局僅かに被告一〇部門常任委員会宛本件訴状一〇通の作成料の域を出ないであろう。
以上縷説事項を大雜把に要約すれば(イ)本件一〇部門常任委員会は何れも被告たる適格を有たない、(ロ)本件條例改正決議は有効であり、(ハ)本件條例及び施行は條例議決即ち成立の時に遡及してその効力を発生し、(ニ)委員及び正副委員長の選任に地方自治法第一一八條の適用準用又は類推適用がなく、なお本件指名推選方法決議は有効であるが、(ホ)議長の指名推選行爲は連続して進行した非民主的手続の終局点として権利の濫用に外ならない。(ヘ)從つて本來少くとも取消の目的になり得るが今これを取消すことは公共の福祉に適合しないから暫らくこれを差控える。(ト)併し乍らこの指名推選行爲により有形無形の損害を被つた者は青森縣議会等にその賠償を求めることができ賠償額の範囲も訴訟費用額に局限されない。苟も指名推選と損害との間に相当因果関係の存する以上、訴訟代理人に支拂つた相当報酬などの償還をすらをも求めることが出來この点は私法上の債務不履行乃至不法行爲による損害賠償額の範囲と毫も異るところがない。
というに盡きる。
よつて主文のように判決する。
(裁判官 中川毅 工藤健作 高沢新七)
(名簿省略)